血戦の地

　本島南部。私の生まれた年…昭和42年からたった22年前に、大きな戦いの遭った地。もうすぐ50年が経とうとしている今（平成５年）も、戦争の跡はあちこちに残っていた。私が見たその跡は、すべて地面の下にあった。
　 小禄の旧海軍司令部壕。「ひめゆり部隊」で有名な陸軍病院壕。「摩文仁の丘」平和公園の海側、崖に面した旧陸軍第32軍司令部壕。

　 旧海軍司令部壕は中に入ることができた。大人が立って歩ける程度の大きさのトンネル、と言えばわかりやすいだろうか。そのトンネルでつながれた各部屋は、必要最小限の大きさしか無い。それでもここはまだ「壕」と呼べるものだった。後に訪れた２カ所に比べれば。

　「ガマ」と呼ばれる石灰質の洞穴が、沖縄本島にはたくさんある。大型爆弾の直撃にも耐えうる頑丈なこれらのガマに、日本軍は立て籠もった。多くの避難民も、ガマに逃げ込んだ。陸軍病院壕と旧陸軍第32軍司令部壕は、それぞれその中のひとつ。昭和20年５月下旬、消耗を重ねた日本軍は喜屋武半島へ撤退。南風原にあった陸軍病院は伊原に、首里にあった第32軍司令部は摩文仁へ落ち延びた。
　「ひめゆりの塔」のすぐ横、陸軍病院壕は２つあった。柵に囲まれた壕-ガマの入口は下に開き、見えているのは日の光が差し込む部分だけ。奥の方まではよくわからない。その暗闇の中で脅え、息を潜めて過ごしていたのか。
　 隣接する「ひめゆり平和祈念資料館」第４展示室。「ひめゆり部隊」の学生達のうち、亡くなった1人1人の遺影パネルが並ぶ。遺影パネルの解説文を読み始めて、１番下の行に釘付けになった。…うっ…「死亡時の状況…不明」次のパネルも、その次も。淡々と書かれた各々の「死亡時の状況」は、その３分の２以上が「不明」。軍の解散命令の後、彼女達はちりぢりばらばらに逃げるしかなくなったのだ。そして、未だにどこでどのように死んだのかわからない。米軍と日本軍の交える銃火に倒れたのか。砲爆撃に四散したのか。あるいは…自決して果てたのか。

↑ひめゆり平和祈念資料館のチケット。

旧海軍司令部壕入場者用パンフの裏表紙。→

　私が実際に目にした戦争の跡は、これだけ。
　だけど「今、自分が踏みしめているこの地面は…確かに誰かが死んで、その血が染みこんでいるのだ」と感じるには充分だった。
　摩文仁でわずかに生き残った人の内、高級参謀・八原博道大佐は、終戦後に本を出している。題名は「沖縄決戦」。後日、本屋でこの本を見つけたが、不意にこんな事を考えたのを覚えている。「…題名の字が、現実を踏まえてないな…」
　沖縄戦は「決戦」ではない。「血戦」だった。

　私は「自衛隊は必要である」と考えている。昔から、そして今も。この沖縄で感じた事を、もちろん踏まえた上でなお、世界が一斉に軍備を放棄しない限り自衛隊は必要だと考える。ただ、有事の時に沖縄戦のような「避難民を巻き込んだ悲惨な戦闘」があり得る事を、ここ沖縄で改めて再認識した。